今回は村田沙耶香さん著『世界99』を読みました。
今年3月に発売されて、本屋大賞にもノミネートされていたので、タイトルを聞いたことがある方も多いと思います。
内容としては、主人公の空子ちゃんが子供時代の話から始まり大人までの一生が描かれています。
空子ちゃんの世界には、『ピョコルン』という生き物がいて、ペットのように家で飼われていて、お散をしたり、ご飯を与えたりする、ものすごくかわいい存在が登場します。
空子ちゃんは子供のころから周りの人のことを残酷なほどの俯瞰して見ていて、相手によって自分のキャラクターを変える子です。
だんだんそのキャラクターが増えていくとどうなるのか?ピョコルンの正体とは・・・?
そんな内容でした。
相手によってキャラを変えるというと、二重人格とか八方美人みたいなイメージがあるかもしれませんが、社会人としての私、家にいる時の私、小学校時代の友達といる時の私、大学の友達といる時の私、実家に帰った時の私は同一人物だけどもキャラクターとしてはちょっとずつ違って、話し方も、使う言葉も違っています。社会人として、妻として、娘としてそれぞれの役割に適した自分を演じている・・・?と言われれば確かにその通りなのかもしれない。
空子ちゃんの母親は専業主婦で空子ちゃんを育てながらピョコルンのお世話をして、家事をしています。そんな母親の姿を空子ちゃんはとても冷酷に表現しています。
でも私も子供のころは母が何かしてくれるのをどこかで当たり前と思っていた節があって、それって空子ちゃんの言う『奴隷』として扱うみたいなことを無意識にしていたのかも・・・と怖くなりました。
加害者だった過去を持っている人が、同じような被害にあった人に会った時の心理がすごく絶妙で、ちょっとした嫌がらせをしたことがある人なら、グサッと来る。
被害者と思っていたら、いつの間にか加害者側になっていて、被害者であるときには相手のことが理解できなかったのに、加害者になりかけたらあの時のあの人はこんな心境だったのかな?と思ったり。
本書ではピョコルンという存在と、『ラロロラ人遺伝子』というものがある世界線ですが、読んでいるうちに、これって今の世の中と近い未来に起こりうる話なんじゃないか、
ピョコルンとラロロラ人が居なくとも、現代の人間が言葉にしないだけで心の底では思っている残酷さがあって、苦しくなりつつも、でも現実世界でこの先どうなるんだろうか・・・という怖いもの見たさで分厚い上下巻を数日で読み切ってしまいました。
上巻では性的描写が多いのでそのあたりは好みがわかれるのかなと感じますが、読了後の感想を言い表せないこの感じを、実際に読んだ人と味わいたいなと思いました。
おしまい